チェンバロハウス通信

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2006年 04月 30日

「教育基本法改正案」について その1

 4月28日、教育基本法の改正案が国会に提出された。教育にたずさわる者にとって重大なニュースである。現行の教育基本法は前文と11条とからなっている短い法律であるが、教育の理念が明瞭に表現されている。一方、改正案は前文と18条からなっている。改正案と現行法を対照してみると、この改正案が教育政策の根本的な転換であるとともに、日本思想史上の大事件というべきものでもあることがわかる。
 まず前文では、現行法、改正案ともに「民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献する」ことが理想として挙げられていて、この理想の実現のために教育があるとされている。その教育の具体的な内容は、現行法「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育」に対して、改正案「個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育」となっている。
 ともに、何気なく読み飛ばせば良いことづくめのようであるが、注意深く読めば、現行法の首尾一貫性に対して、改正案は無内容な美辞麗句であることがわかる。ついでながら、「真理と平和」が「真理と正義」に代えられていることも教育現場に大きな影響を与えると思うが、思想的に重要なのは後半で、現行法が「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化」としているところを、改正案は「豊かな人間性と創造性、伝統を継承し、新しい文化の創造」と置き換えている。
 問題は、「豊かな人間性と創造性」と「伝統の継承」と「新しい文化の創造」とが時として対立する理想になりうるということである。もちろん、多くの局面でこれらは両立しうると思うし、両立させていきたい理想ではあるが、「豊かな人間性と創造性」と「伝統の継承」が対立するものになったり、「伝統の継承」と「新しい文化の創造」が対立する可能性はゼロではない。かりにこれらが対立したときに、改正案にはどちらを優先すべきかについての基準がないのである。
 一方、現行法の「普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化」は、「豊かな人間性と創造性」、「伝統の継承」、「新しい文化の創造」が葛藤したときに判断基準となりうるより上位の価値基準である。どうしてこの基準を捨てて、矛盾を内包した文言に置き換えなければならないのだろうか。改正案では、「豊かな人間性と創造性」が優先されるか、あるいは「伝統の継承」が優先されるか、「新しい文化の創造」が優先されるかは、結局権力をもった人の恣意的な判断にゆだねられることになってしまうのではなかろうか。(この項続く)
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by detousbiens | 2006-04-30 03:51 | 教育